コンテンツちょっと見たり男

映画とか漫画とか見たときのメモです

『ガス燈』(1944)みた

ガスライティング」の元ネタの、映画『ガス燈』を見た。

アマゾンプライム。昔の映画もたくさんあってすごい。

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用語としての「ガスライティング」の意味は、Wikipediaによれば、

心理的虐待の一種であり、被害者に些細な嫌がらせを行ったり、わざと誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気、もしくは自身の認識を疑うよう仕向ける手法

とのこと。

被害者の持ち物をこっそり隠して、それを被害者自身が失くしたんだと言って責める。初めて伝える情報について、すでに何度も伝えたかのように言って、被害者に記憶違いだと思わせる。直接的なアプローチに加えて、何気ない会話の中でも「君は物をよくなくすから」「君は忘れっぽい」と、冗談交じりで被害者の認知能力に欠落があるようなレッテル貼りをする。硬軟併せて相手の自信を喪失させ、自分に依存させていく手法っぽいです。最近もDVとかで話題になった言葉なんすね。

サイコスリラー的な前半は結構面白かった一方で、後半のイケメン刑事が出てきてからは退屈だった。幸せそうな恋人たちが結婚してからは、夫の執拗な「ガスライティング」によって非対称な関係になっていく。婚前は一人旅に出る程度には自立していた妻は、もはや散歩に行くこともままならず、自室に籠り、揺れるガス燈の火に怯えて叫び声をあげるようになってしまう。落差の大きさが見てて楽しい。妻が物をなくしたり忘れたりする様子も、「ガスライティング」の由来だと知っている状態で見れば夫の仕業だと分かるけど、途中までははっきり明かされない。ひょっとしたら本当に物忘れがひどくなっていて、精神薄弱になりつつあるかも…という不安を視聴者自身も感じられそう。

後半からは「ガスライティング」の種明かし。いかにも二枚目な感じのスコットランド・ヤードの刑事が、発狂寸前の妻の前に颯爽と現れて、「君は間違ってないよ。全部あの夫が悪いんだ」と優しく慰める。まさに白馬の王子様っすね。勝ち確って感じで、まったくハラハラしない。失せ物の行方は分かるし、夫の動機も判明するし、夫を警察に連行したのち刑事は妻とイイ感じになってるし、めでたしめでたし。

ガスライティング」がDVの手段というか、パートナーをコントロール下に置くための方法なわけだが、この「白馬の王子様」も大概悪どい接近術な感じがするよな。もちろん作中では善意や使命感から刑事は動いてるんだけど、救ったきっかけは妻(イングリッド・バーグマン)が美人だったからだし…。明確な敵や劣悪な環境にヒロインを晒して、それをヒーローとして救いあげるっていう結構卑劣な構造。加えて、美人妻は世界的スター歌手の姪で、生き写しのような外見をしているうえに、刑事は少年時代、その歌手の大ファンだったという設定だ。少年の頃に自分のものにできなかったマドンナとそっくりな女を、成長してピンチから救い上げるってのはかなりエディプス・コンプレックス的だ。悪役の夫による「ガスライティング」が邪悪な光を強く放っている一方で、ヒーローの振る舞いもだいぶ歪んでいる。まあ80年前の作品を現代のモラルで糺すのも無茶ではあるけど…。

あえて現代に翻案するなら、入れ子構造にすると良いかもな。まず真っ直ぐ「ガスライティング」を見せといて、実はそれは「白馬の王子様」によるマッチポンプで、さらに被害者の女も本当にイカレてて…みたいな。やっぱり「全員悪人」って面白いよな。でも相対化も最近はだいぶ進んでいるから、一周回って露骨なくらいの善悪の対立のほうがウケるかも。はっきりした、憎まれるべくして憎まれる悪者が求められてるかもね。

久々に文章書いたせいで、かな~り駄文になっちゃった。

まあでもメモ感覚で今後も続けたいな~。

 

おしまい